【第108期講座】2012年10月-2013年03月

木暮 太一の講座リポート


■はじめに
 経済入門作家の木暮太一氏は、社会の経済がどのような仕組みで動いているのかをわかりやすく解説することで定評がある。その著作活動も経済の基本的な原則とその仕組みの中でどのように生きるべきかというライフデザインの提案にまで及び、具体的な問題解決の方法論は若い学生からビジネスマンにいたるまで高い評価を得ている。
 本講座においても「働く」ことの意味について、人間の「幸福」の本質について提示していただき、あらためて「幸せな働き方」について考える機会となった。

■目指すべき「幸せな働き方」とは
 木暮太一氏は、資本主義社会における経済原則を理解し、この社会の中で生計を立てることの仕組みを知ることによって、幸福な人生をつくることができると強調する。人生における経済的な不平や不満の多くは、この社会の土台となっている経済原則を理解していないからであるという。たとえば会社で働く人たちの給料はどのように決まっているのかを知れば、十分に能力を発揮しても劇的に給料が上がらない理由も明らかになる。頑張っても給料が上がらないと嘆く人たちは、まず給料がどのように決まっているのかを理解すべきだという。
 木暮氏によれば、お金の稼ぎ方には二つの方法がある。ひとつは「時間と体力を切り売りする」こと。ただお金を得るためだけに、時間と体力を切り売りするという方法である。もうひとつは、「お金に働かせる」という方法である。資産を運用して、お金がお金を産むようにするお金の稼ぎ方である。
 木暮氏は「お金に働かせる」という方法については、資産がなければできないというのではなく、仕事への取り組み方としての理解を促している。仕事が単に時間と体力を切り売りするものになってしまわず、未来に資産となるような仕事の仕方があるのだという。
 それは仕事を通じて「能力や資格の取得」をすることであり、ある領域の専門性を身につけることである。この能力や資格は、できるだけ長い時間をかけて取得していくものがよく、短時間で身につけられるのはすぐに競合し、価値を下げてしまうと指摘する。簿記三級などの資格は誰でも持つことができるし、短時間の努力で取得できるため、木暮氏の言うような未来の資産となる専門性とはならない。たとえば上場企業の「社外取締役」に任命さるような人は、若い頃から努力をして実績と成果を出してきたからこそ、企業の方向性を決める重要な意思決定に参加することができる資格をもつにいたったのである。
 日本人の働き方として、ひと昔前に「就職」ではなく「就社」であると揶揄されたことがある。これは職に就くのではなく会社に就くという意味で、自分自身の専門性を磨くというよりはその会社の専門性が身につくということ。会社への忠誠心をもって一生懸命に働くが、退社をすると何も残らないという人が多く見られた。現在でも65歳定年に向けて、各企業はシルバー世代のもつ技術や経験を次世代につなぐ専門性をもった人はありがたいが、単にぶらさがっている人の面倒を見たいとは思わないという意見もあるようだ。長い経験が資産となるかどうかが、これからもっと問われるようになるに違いない。
 したがって給料が上がらないと不平不満を持つよりも、与えられた仕事に意味を見出し、未来の資産となる経験と実績、成果を上げることに意識を向けることが重要であるというのが、木暮氏の中心的な議論であった。

■むすびにかえて
◆ヘドニック・トレッドミル現象
 木暮氏は人間の性質として意識しておくべきことがあるという。それは人間がすべてにおいて「慣れる」生き物であること。たとえば年収500万円の人が、年収1000万円になることを夢みているときは、それがどれほど幸せなことだろうと思っている。しかし頑張って1000万円の年収を得るようになると、当初は幸せを感じるかもしれないが、時間が経つにつれてその夢の年収1000万円が当たり前になり、自然と慣れてしまう。そして頑張って2000万円の年収を得ても、それでもまた慣れてしまうという。
 木暮氏はこのような現象を「ヘドニック・トレッドミル現象」であると紹介し、私たちは「目的を持った成長を目指す」べきであると強調されていた。

◆目的を持った成長をめざす
 単にお金だけを目標にすれば、ヘドニック・トレッドミル現象により幸福感は陳腐化してしまう。そのために激しい競争を繰り返さなければならないというのも不毛である。
 常に幸福感を持ちながら働くことができるのは、「何のために?何をしたいのか?」という目的を明らかにすることである。お金のために時間と体力を切り売りするのではなく、未来のありたい姿を目指して、目的に向かって努力することが大切であると木暮氏は指摘する。