【第101期講座】2009年01月-2009年06月

高野 登の講座リポート


■はじめに
 リッツ・カールトンの高野登氏は本講座へは二度目の登壇である。前回の講座では大きな反響があって、「もう一度高野氏の講演を聴きたい」というリクエストに高野氏が快諾してくださり、本講座への再度登壇が実現することになった。
  いつもながら、高野氏の「おもてなしへの心」を大切にするリッツ・カールトンの理念とビジョンへの確信は変わらない。そしてホンモノのホテルづくりに誠心誠意を傾けている姿勢には心打たれるものがある。

■新型インフルエンザの流行の影響は?
  日本経済が世界的な金融危機の痛手から立ち上がろうとする矢先に起こったのが、新型インフルエンザの感染問題である。ちょうど4月から5月のゴールデンウィークに新型インフルエンザに対応する厚生労働省の動きによって、関西の観光地は大打撃を受けた。マスクは売り切れ、修学旅行は中止になり、関西への旅行者は激減した。
  高野氏は「こうした状況は一ホテルの努力や対応でどうにかなるものではありません」として、ひたすら耐えることしかないと語っていた。しかし、高野氏が大阪のリッツ・カールトンに励ましの電話をかけたそうであるが、現場メンバーからの返事は「忙しいので電話を切っていいですか?」というものであったという。
  大阪のリッツ・カールトンで起こっていた出来事は、「リッツならレストランで食事をしても大丈夫だと思うので・・・」というお客様が次々と訪れて大盛況というものだった。

  高野氏によれば、こういうときにどれだけ普段のお客様へのおもてなしができていたかが良くわかるのだという。つまり、テーブルセッティングの徹底がなされている姿を普段からお客様が肌で感じていた。お客様が食事をすました後は、フォーク・ナイフはもちろんのことすべてを入れ替えて、まったく新しいセットを準備する。だからこそ、見えないウィルスをシャットアウトできているという安心感があるのだろう。
  ブランドとは、こうした日々の努力の積み重ねによってつくられるのだと高野氏は語る。

■リッツ・カールトンの心はクレドに集約される
リッツ・カールトンにはクレド(credo)というカードがある。クレドとは「信条」を意味するラテン語で、企業の信条や行動指針が記されている。

   「We Are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」
  「わたしたちは、紳士淑女にサービスを提供する紳士淑女であります」

  リッツ・カールトンのモットーはこの言葉に集約されるようである。
「お客様は神様です」という言葉はよく使われるものだが、お客様のためにサービスすることで社員が疲弊してしまっては意味がないし、お客様の奴隷になるというのもおかしなことである。リッツ・カールトンの社員は紳士淑女としての誇りと品位をもちながら、お客様を紳士淑女としてお招きし、応対する。だからこそ真のおもてなし、心のこもったおもてなしができるのだと、高野氏は胸を張る。

 会場から「どうしてリッツ・カールトンに泊まるお子様は良い子ばかりなんですか?」との質問に対して、「その答えになるかわかりませんが・・・」と言って次のような内容を語られた。リッツ・カールトンにおこしになられたお客様は、誠心誠意、紳士淑女としてもてなしを受けることで、無意識にでも紳士淑女としての姿が態度となってあらわれるのかもしれない。レストランで食事をして帰られるお客様であっても、コース料理がすすんでいくうちに猫背だったお客様の背筋がどんどん伸びていくといった風景は珍しいことではないという。

  クレドに示された行動指針は、リッツ・カールトンの社員の行動の判断基準になるもので、その場での判断は社員に任せられている。あくまでもお客様を紳士淑女として接する際には、社員も紳士淑女であるという自覚がもたらすパワーが、心のこもったおもてなしにつながっているということであろう。

■「むすび」にかえて
 クレドに示されている信条を共有することが、リッツ・カールトンのおもてなしの心によるブランドづくりの原動力になっているに違いない。
  高野氏がさまざまな講演を行うことで、リッツ・カールトンを訪れる人々の期待値は大きく跳ね上がっている。それで時々は「あまり良いように話をしてもらうと、期待値が大きくて大変だ」と社員から言われることがあるという。しかし、高野氏は「期待値が大きいということはありがたいことだ。それ以上に頑張り続けることができるのだから」と伝えているという。期待の大きなホテルというだけで、確かなブランドがつくられていることを確信すべきだという高野氏の姿勢に学ぶことの大きいものがある。

本リポートはTCC会員様の特典となっておりますので、転送・配布等はご遠慮ください。

2009年6月18日発行  NPO法人ザ・シチズンズ・カレッジ