【第98期講座】2007年07月-2007年12月

武田 邦彦の講座リポート



■はじめに
武田邦彦氏は『日本人の誠』を大切にする、実に気骨ある学者のひとりである。それは武田氏が、「日本が民主主義の国であるなら、国民がゴミのリサイクルの実態や東海沖大地震の予測についてのデータといった重要な事実を知らされていないのはおかしいと主張していることからもそれは窺える。国民が事実を知ることでパニックになることはない。むしろ知らされていないことが問題で、突然のことがあったときにこそパニックになるのだという。

大地震に対してどこまで予測できるのかといった事実を知ることによって、国民はその事実に基づいて日頃の行動をするようになるものだと主張する。問題はその地域ごとの最大震度の予測を明確にし、その最大震度に対応した暮らしを心がけることが大切であると教えていただいた。

武田氏の事実をみつめる確かな眼には驚きをかくせない。

「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」(洋泉社)がベストセラーになったきっかけは、読売テレビの人気番組「たかじんのそこまで言って委員会」に出演したところにあった。この番組で武田氏が淡々と「ペットボトルのリサイクルは意味がない」「ダイオキシンの毒性には問題がない」といった発言を次々と展開し、大きな反響を呼んだ。この番組は関東エリアのみ放映されていないが、全国的には日曜の午後1時半から3時という時間帯で視聴率が20%前後あるらしい。環境問題に何となく疑問を感じていた人々が武田氏の著書を求めて書店に走ったということであろう。

武田氏は、「意見を事実のように主張するのは間違っている。事実を事実として伝えるべきである」と指摘し、科学者のあるべき姿を示しておられた。

■北極の氷が融けたら、海水面が上昇する?
武田氏はNHKのある番組で「地球の温暖化が進み、北極の氷が融け出すと海水面が上昇する」との発言に耳を疑ったという。アルキメデスの原理によれば、北極海の氷が融け出したからといって海水面が上昇はしないという事実がある。このアルキメデスの原理は誰もが学生時代に勉強しているはずで、常識といってもよいものだ。温暖化による海水面の上昇をセンセーショナルに伝えるために、都市が水没するといった映像が流される。「環境問題の重要性を伝えるためなのだから、それはそれでいいではないか」という人もいるらしい。環境問題への関心と意識を高めるためにはウソも正当化されるなどというのは間違っている。

それでは南極大陸の周辺の海水温度が上昇すると、南極の氷が融け出すのか?

「アルキメデスの原理のようにはいかず、間違いなく海水面は上昇する」と主張する人々もいるらしい。しかし、武田教授は「南極付近の海水温度が上昇すると南極には氷が増えて、むしろ海水面は少し下降する」という事実を示す。南極での温度はマイナス50度にも及び、海水温度が上昇するとその水蒸気が南極で冷やされて雪となり氷がたくさんできるのだという。

武田氏はその根拠としてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という組織の報告書のデータを示している。

「南極の海氷面積には、引き続き年々変動と局地的な変化はみられるものの、統計学的に有意な平均的傾向はみられない。これはこの地域全体で平均すると昇温が認められていないことと整合している」(IPCC第4次評価報告書第一作業部会報告書/2007年3月気象庁翻訳)

「現在の全球モデルを用いた研究によれば、南極の氷床十分に低温で、広範囲にわたる表面の融解は起こらず、むしろ降雪が増加するためその質量は増加すると予測される」(同上)

■ペットボトルのリサイクル幻想
ペットボトルのリサイクルもまた事実がしっかりと伝えられていないと武田氏は嘆く。

ペットボトルの消費量は現在、年間50万トンを超えている。毎日のように消費されるペットボトルはゴミとして回収されるのだが、ペットボトル専用のリサイクルボックスからどれだけリサイクルされているのかという明確な数字が出てこない。回収率=リサイクル率と勘違いを起こしているのが私たちの現状なのかもしれない。ペットボトルを専用のボックスに捨てると私たちはさもリサイクルに貢献したような気分になる。しかしリサイクルの実態がどのようになっているのかを私たちは知らされていない。

武田氏は、「50万トンが廃棄されるペットボトルのうち、半分の25万トン以上が外国に出される。それも国民からキログラムあたり400円の税金を取って、それを無視し、10分の1の40円で売ってポケットに入れる。税金は自分で出したのではないから、『儲かる』という。・・・・そして、業者もまた国民の400円をゼロ評価して30円で買い、『私たちは14万トンをリサイクルしています』と言う」とその実態を嘆いている。(武田邦彦/コーヒータイムより)

政府も業者もペットボトルをどれだけリサイクルしているのかという明確な数字を出していない。それで仕方がないので武田氏は独自に調査し「50万トンのペットボトルがリサイクルされているのは3万トン」という数字をはじき出した。これでは国民がせっせとペットボトルのキャップを外し、自宅の水道水を使って洗い、分別してリサイクルをするといった手間隙が報われていないではないか。自分たちの出したゴミは自分たちで処理するという精神のもとでゴミの分別が始まったのであれば、政府や業者はその国民の努力に相応した処理が求められるのではないかと武田氏は指摘している。

■ダイオキシンは猛毒か?
ダイオキシン問題も事実をもっと突き詰める必要があると武田氏は語る。

1970年代の日本の田畑にあったダイオキシンの量は、ベトナム戦争でアメリカが散布した枯葉剤によるダイオキシンの量よりも多かったという報告があるという。確かに野焼きをすれば、そこはダイオキシンに汚染される。しかしそのダイオキシンによってどれだけ人体に影響があったのか。ラットを使った実験によってダイオキシンの有毒性は認められるものの、人間にとって致死量はどれほどなのかについてはまだわかっていないという。

武田氏によれば、ダイオキシンが発生する環境として最もよい環境はプラスチックなどが600度ほどで燃焼するときであるという。そこで、焼き鳥が炭火で焼く環境はダイオキシンの発生にもっともよいとして、「焼き鳥屋の親父は毎日、ダイオキシンに汚染されているはずだが、元気に働けているのはどういうことか」と笑っておられた。

■温暖化対策とCO2の削減
今年の夏は異常な暑さが襲ってきた。

摂氏40度を超える環境で人間は生きることができない。したがってその対策としてはまず身体を保護するために身体を冷やさなければならない。それにはクーラーを使う必要があるわけだが、そこで「CO2を排出することは問題だ」などと言う前に「命を守れ!」と言うべきだ。これこそが温暖化対策ではなかろうかと武田氏は指摘するのである。「気温が37度を超えたら警戒警報を発し、子どもや高齢者といった弱者が避難できる場所を確保することこそ政府が行うべき温暖化対策である」との指摘は傾聴にあたいする。

地球温暖化の原因は人間にあるのか?それとも自然の現象なのか?この問題の原因を追究してゆくとき、温暖化のすべての原因が人間の活動にあるとはいいきれないのが科学者の立場である。もちろん人間の活動が地球環境に大きく影響を与えていることは事実である。地球環境をよくするためには人間の活動を停止しなければならないということになり、それで私たちの暮らしはどうなるのかを考えなければならないという

■日本のモノづくりの誠(こころ)
武田氏は「私の考え方の原則」として次の項目を掲げている。

私の考え方の原則

日本人の誠(渡し船、言ったこと)。
お上は正しいとは決まっていない。
テレビや新聞より論文を使う。
従来の学問と違えば、とりあえず疑う(違っても良い)。
希望を事実にしない。事実から意見に進む(事実を変えない)。
事実を国民に伝えても問題ない。

武田氏は何よりも「日本人の誠」を大切にしているとのこと。

日本人のモノづくりの心を象徴するものとして、茶碗をつくる職人は買ってくれたお客に対して「大切に使ってくださいね」と言って渡すという。「朝食を食べた後で、茶碗を割って分別して捨ててください」というはずはなく、職人は自分のつくったものが大切に長く使われることを願うはずである。日本人のモノづくりの心はここにあるはずなのだが、大量消費時代に馴らされてしまっている私たちは、企業の廃棄戦略の落とし穴にはまってしまっている。新しいモノを作れば、今もっているものを捨てさせなければならないとする企業の販売戦略のなかで、日本人の本来ある「誠」(こころ)が失われているのではないかと武田氏は指摘するのである。そして、「希望を事実にしない。事実から意見に進む(事実を変えない)」という項目が眼をひくが、事実を事実として受け容れることは意外と心のエネルギーがいる。だからこそ事実を見据えて意見を論じることこそ、本当の話ができるというものである。

■「まとめ」にかえて
未来の子どもたちのための環境問題として、日本の食糧問題である自給率を高めることと石油等のエネルギーの枯渇に対して今のうちに準備をしておくべきであると主張する。

武田氏は、CO2の削減よりも具体的に問題になるのは食糧自給率であり、石油に代わるバイオエタノールは食糧とエネルギーを交換することとなるため、日本には重大な問題をもたらすと指摘しておられた。事実としてバイオエタノールが高く売れるようになると、日本の食糧としての穀物輸入に大きな打撃となるであろう。未来の子どもたちのために、今の大人の決断と覚悟が問われているとの指摘には心動かされるものがある。

そして何よりも「日本人の誠(こころ)」を取り戻すこと、日本人の誇るべき豊かな風土を残すことが大切であると強く主張しておられたのが印象的だった。

環境問題を考えていくと、ライフスタイルの問題となる。私たちが暮らしの中で何を幸せと思うのかが問題の中心である。温暖化やCO2の排出問題は「私のライフスタイル」の中に吸収されてゆくのではあるまいか。なるべく資源やエネルギーを使わずに生きることが美しいと感じられるかは、個々人のライフスタイルと幸福観にかかわっているのではないだろうか。



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2007年9月13日発行  NPO法人ザ・シチズンズ・カレッジ